Googleのマネジメントにコーチングを取り入れたピーターソン氏のインタビュー動画を紹介します

Googleでは、優れたマネージャの条件の一つにコーチングをあげています

そんなGoogleで経営層向けのコーチングや社内に向けたコーチングプログラムを行なっているデイビッド・ピーターソン氏のインタビュー動画を見つけたので、かいつまんで訳してみました。

1980年代からのエグゼクティブコーチングの発展にも寄与してきた彼の語る内容は、コーチングをやっている人にとってはもちろん、組織でマネジメントに関わる人にとってもおもしろく、参考になるんじゃないかと思います。

David B. Peterson氏について

2011年にリーダーシップやコーチング導入を含む組織開発の担当役員としてGoogleへジョイン。
以前はPDI(2012年にKorn Ferryが買収)の副社長としてコーチングやリーダー研修のサービスに従事。
上級幹部向けのエグゼクティブコーチングや組織開発プログラムをグローバル企業に提供していた。
今は妻と共にサンフランシスコに住んでおり、ピノという名のかわいいチベタンテリアを飼っている。

https://instituteofcoaching.org/david-peterson-0

どのようにコーチになったか教えてください

デイビッド・ピーターソンです。
Googleで3年ほど働いていて、上級幹部向けにエグゼクティブコーチングをやっています。
また、企業向けのリーダー育成コンサルやエグゼクティブコーチングも数十年やっています。

だいぶ早い時期からコーチングをやっていて、1980年代からPDIという、当時のコーチング界では先進的な会社に入りました。

そのころは「マネジメントコーチング」と呼んでましたが、どうやったら学びや成長を支援できるかを追求しながらエグゼクティブコーチングを発展させてきました。

コーチとして成長するにはどうすればいいですかね?

コーチとしての成長には3つのステージがあると思います。

最初のステージは、基本的なモデルを学ぶことです。
アプローチ方法や進め方、ツールの使い方はもちろん、話の聞きかた、質問やフィードバック。
そして効果的に対話を始める方法や、思考から行動に移すためのモデルなど。
最初から無理はせず、自分が力になれると思う人に対してコーチングを提供し、しっかり学んで経験を積むことから始めるのをお勧めしています。

次のステージは、多くのプロセスを学んで、自分のコーチングに取り入れること。

そして一番大切なステージは、「どれだけ良いコーチになりたいか」を自覚することです。
コーチとして際立ちたいのか、今のままであり続けたいのか。
本当に際立ちたいのなら、努力しないといけない。

過去の調査が示す「物事を極めるための方法論」というのはコーチングにも当てはまります。

ポイントは2つあって、まずは10,000時間の経験。
そのためには実践だけでなく、日常の会話でも、聞きかたに注意したり、相手の考えに思考をめぐらせてみることです。

そしてもう一つは「意図的な実践」と呼ばれるもので、自分の成長や改善を常に意識しておくことです。

私の例をあげると、とある6ヶ月間、全てのクライアントとの会話で、一番最初に発する質問の質をいかにあげるかということにこだわったことがあります。
「さて今日はどうしましょうか?」という一つの質問でも、イントネーションをどこにおくかで相手に与える印象が大きく変わります。
いろいろ試しながら、どうすればより良くなるか、ということを突き詰めていきました。

いろいろなコーチがそれぞれの手法を用いることについては、どう思います?

コーチングの本来の目的は、成長を支援することです。
その方法はただ質問するだけじゃなくて、いろいろな関わりかたがあるはずです。
また、たとえコーチじゃなくても、人の成長を支援しようしたときには、コーチっぽくに関わることが必要です。

同僚の一人は私のことを「好奇心の人」みたいに言ったりもしますが、コーチは自分の成長に対しても敏感に興味を持つ必要があると思います。

どんなコーチでありたいのか、どんな価値観を大事にしたいのか、何に興味を持って何から気づきを得ているのか、どんなミッションを持っているのか、というようなことを意識することです。

あなたの手法についてもうちょっと聞かせてください

自身の内側に向いている思考を、外側に広げていくことから始めます。

チーム、組織、業界、経済・・と、自分がどんな影響を与えているのか、視点を広げていきます。

さらに将来に意識を向けるなど時間軸をずらしてみたり、周囲の人からの視点など、いろいろな角度で自分の影響範囲を見つめなおし、もっとも良いインパクトを与えられることは何かを自覚し、実行することを支援します。

実際にそのモデルを使ったときの例をあげてみて

とある人のプレゼンテーションを改善するという話です。

まずは、どうプレゼンを始めて、何を伝え、どう締めくくるかというような表面的なところから確認していきました。
そして次に、聴衆にどんなインパクトを与えたいのか、どんな価値を伝えたいのか。
さらに、リーダーとしてどのように見られたいのか。リーダーとしてのあなたの主張をどのように表現すると良いのか。
そんな話をしていくと、彼の立ち振る舞いも堂々としてきたんです。
そして自分の言葉でしっかり伝えるようになった。
彼はもともと優れたプレゼンターとは言えませんでしたが、そのプレゼンを聞いた人たちの反応は、ただ話を理解しただけではなく、リーダーとして尊敬できると感じた、ということを言っていました。

たった30分の対話でこのような変化が起こったのです。

その後さらに「どうありたいのか」「どこに向かうのか」「どんな組織をつくりたいのか」というテーマを深掘っていき、いまは組織の再建にも取り組んでいます。

組織内における自分の役職でコーチングを活用したいという声がありますが、それに対してどう考えます?

以前に「プロジェクト・オキシジェン」として発表した研究結果にもあるように、Googleでは優れたマネージャの基本条件としてコーチングを上げています。

明確な見通しとフィードバックを与え、メンバーの成長と能力の発揮に責任感を持つことです。

社内調査からも、このことはGoogleの中にしっかり組み込まれていることが確認できていて、Googleでマネージャとして働くうえでの基礎となっています。

新しいことを取り入れるのが苦手な組織に取り入れるにはどうすればいい?

Googleは今年15年目という比較的若い組織なので、古い慣習が染み付いてるようなことはありませんが、もしそのような組織で取り入れようとするとしたら、私のコーチングでは「あなたはどうしたいのか?」「もっとも大きなチャレンジはなんだろう?」「あなたがもっとも活躍できるところは?」「解決できなくて一番フラストレーションがたまってる課題は?」みたいなことを問うところから始めるでしょう。
このような質問が動きを生むきっかけになります。

良い関係性のもと支援を受けながらゴールイメージや解決策が見えてくると、人はそれを実行したくなるものです。
ですが、人の基本的なモチベーションは、その人が気にかけていることから生まれます。
組織やチームメンバーに対して、単純に指示をするだけではなかなかうまくいかないものです。

メンバーが本当に気にかけていることを理解して働きかけることが大事です。

チームに対してコーチングする場合も、個人に対するのと同じやり方をするの?

基本的にはそうですが、チームの変化や成長に影響する主な要因はなんだろう、ということを意識します。

まずは、メンバーが何を期待していて何を課題と感じているかといった内面的なこと。

2つめはモチベーション。メンバーそれぞれが違ったモチベーションを持っているから、それを束ねる必要があります。

3つめに能力。これからの変化に必要なスキルや知識があるかどうか。単純に研修すればいいものでもなく、スキルをえようとする意欲が関係している場合もあります。

4つめは現場の実体験のようなもの。日常の業務でも気づきや学びの機会がたくさんありますが、見逃されがちです。マネージャやコーチが適切に関わることで良い変化を生むことができます。

そして最後に、説明責任。ともに決めたアクションの進捗を丁寧にケアすることで、新しい取り組みを始めるときに立ちはだかる一番大きなハードルを乗り越える手助けになります。
また、もしアクションができなくても、批判せずに取り組むことです。
変化に強い組織にするためにはメンバーがいろいろ試したいと思ってもらえる環境が求められるので、メンバーが批判的に感じることが無いようなケアが必要です。

最近のコーチングについてどう見てます?

いまこのタイミングは大きな変化の最中だと言えます。

コーチングを提供する側の観点だと、コーチングに興味を持ち、コーチになろうとする増え、あるいは仕事の中にコーチングを取り入れる人が増えてきています。

上級役員と仕事をするような、弁護士や税理士、人材関係の仕事の人たちが支援的な活動を始めたり、自己成長能力の高いリーダーなどは競争環境が激しくなってきているため、コーチは成果を出し続けないといけないし、よりニッチな強みを持つ必要があります。

コーチングによってGoogleにどんな変化がありました?

Googleが変わったことではないんですが、逆にGoogleが私のコーチングに対する見方を変えました。

Googleは早い変化を好み、結果主義です。
またGoogleには優秀な人が多く、そういう人たちは、学び方をすでに心得ているけど忙しすぎるという状態です。

なので私の主な役割は、内省して思考を促すための時間をしっかりとつくり、モチベーションを引き出すことでした。

組織へのコーチングをやりたい人へどのようなアドバイスをする?

私がコーチングを学んだときに驚かされたのは、さまざまな領域の知識が潜在的に関わってくるということです。

まず人のモチベーションや行動変容に関する心理学やスキルについて学ぶことが一つ。

またどのようにして人とつながるか、感情に関する理解、傾聴スキルについて理解しておくこと。
これはまた個人と組織で異なってきます。

さらにビジネスの知識も必要。ビジネスの専門用語や言い回しなども。

別の観点だと、リーダーシップやマネジメントの効果についても理解しておく必要があります。
組織論やチーム論や組織階層なども。必要な知識は広範囲に渡ります。
すべてに精通する必要はないが、いくつかは深く理解しているべきでしょう。

コーチングを提供する組織の領域に合わせた強みが必要だったりするの?

以前、とあるCEOからこんなことを言われました。

「なんでお前と仕事しなきゃいけないんだ。お前はCEOをやったことがないじゃないか」

そこで30人以上のCEOのパフォーマンス向上に貢献してきた私からは、こんなことを伝えました。

「たしかに同じ境遇ではないが、それが私の価値ではない。私の価値はあなたの成長や変化を支援し、促進すること。
あなたの専門領域の話が全く理解できないようならどうしようもないですが、そのジャンルについて私が深く理解する必要はないんです。
なぜなら私が提供する専門性はあなたとは別のものだから。」